玄関チャイムが鳴ると、父親は慌ててカーテンを閉めた。
母親、「何してるの?」
父親、「塗装屋さんだろう?」
母親、「そうよ。貴方、早く出て」
父親、「俺が出るの?君が出ろよ」
母親、「貴方、世帯主でしょ、出てよ」
父親、「俺、苦手なんだよ」
玄関ドアを開けて塗装屋さんに挨拶する時の母親は、父親と話す時より声がワントーン高くなった。
母親、「おはよう御座います。宜しくお願いします」
家の外から多少聞こえるのは、脚立や塗料が入った缶の金属音。
その金属音が聞こえる度に、父親は「しかめっ面」をする。
塗装屋さんに挨拶を終えた母親が部屋に戻って来ると
父親、「玄関ドアのカギは掛ったか?」
母親、「どうしてカギを掛うのよ?」
父親、「カギを掛けないと不用心だろ」
母親、「塗装屋さんがいるじゃない」
父親、「だからカギを掛けろって言ってるの!」
母親と私、「???」
父親がカーテンを閉めっぱなしにするため、飼っている犬が1日中キャンキャン鳴いている。
私、「勉強の邪魔だから。散歩に連れて行ってよ」
母親、「私はダメよ、ご飯を作ってるから」
父親、「俺が行くの?」
私が勉強部屋、母親が台所へ行くと、父親が犬を散歩に連れて行くことになった。
父親、「家のカギは何処?」
母親、「カギなんて掛けなくても良いわよ」
父親、「ダメだよ、不用心だから」
勉強部屋にいると、玄関ドアのカギが「ガチャ」と掛かる音が聞こえた。
30分後、散歩から父親が帰って来たのだが、玄関ドアのカギが掛かる音がしない、どうしてだろう?
気になってリビングへ行くと
父親、「塗装屋さん、感じの良い人ばかりだな」
母親、「どんな人が来ると思ったの?」
父親、「てっきり、ヤンチャな人が来るかと思った」
母親、「それは偏見よ」
家の外壁塗装は約1ヶ月続いたが、音を感じたのは、足場を組む時と解体する時くらい。
窓を閉めていると、塗料の匂いさえも感じなかった。