外壁塗装のようにはいかない私の記憶

外壁塗装のようにはいかない私の記憶

夫が突然、「家の外壁塗装をしようか」と言い出した。
家のことに全く無関心だった夫の発言に
息子、「オヤジ、大丈夫か?」
娘、「病院で診てもらったほうが良いわよ」

夫と私は高校のクラスメイトで、来年、長年勤めた会社を定年退職する。
白髪や老眼、頻尿など、老いを感じるのは私も同じ。
健康診断で異常が見付かってからは、家の周囲をウォーキングするようになった。

ウォーキングの時に
私、「どうして外壁塗装をする気になったの?」
夫、「歳が歳だから、何があるか分からないじゃない」
夫の弱気な発言は、出会いから40数年で初めてのこと。

私、「うちはコンクリートの外壁だから、塗装はしなくても良いのよ」
夫、「コンクリートの家は塗装はしないんだ」
私、「塗装をしたかったの?」
夫、「そうじゃないけど・・・」

ウォーキングをしていると、近所の人が飼っている子犬が吠えた。
私、「昔、犬を飼いたいって言ってたよね?」
夫、「そんなこと言ったか?」
私、「言ったわよ」

家に帰って、子供達に夫が犬を飼いたいと言ったことがあるのか聞いてみると
子供達、「犬を飼いたいと言ったのはママじゃない」
私、「私が言ったの?」
全くの記憶違いをしていた。

夫が仕事から帰って来たら、珍しく食事に誘ってくれた。
お気に入りの服に着替えたのだが、夫に連れて行かれたのは病院。
私、「何処か悪いの?」
診察を受けたのは、私だった。

ドクター、「自分の名前は言えますか?」
私、「バカにしないで下さい」
ドクター、「家の外壁塗装は、いつされましたか?」
私、「まだしてませんよ」
ドクター、「お子さんは?」
私、「子供なんていませんよ」
入院することになった。

病室から見える景色で、私が気になるのは外壁塗装をしている家。
見舞いに来てくれた夫、「妻は、どうして外壁塗装をしている家に執着をするのですか?」
ドクター、「外壁塗装をしている家を見ている時の奥さんは穏やかな表情ですから、外壁塗装に良い思い出があるのでしょう」

3ヶ月の入院で症状は落ち着き、自宅に帰ることが出来た。
子供達、「おかえり」
子供達のことより私が気になるのは、外壁塗装をしている我が家。
夫、「何か思い出す?」
そう言われても何も思い出せないが、防護ネットで覆われた薄暗い部屋にいると、なぜか落ち着く。

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